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膵癌を早期発見するためには?

1. 膵癌診断のアルゴリズム

2. 早期発見とは?どの段階で発見すれば良いのか?

 ①早期発見とは、どういう意味か?

 ②どの段階で発見すれば、根治が目指せるのか?

3. 早期発見するために;膵癌の症状

4. 早期発見するために;膵酵素・腫瘍マーカー

5. 早期発見するために;膵癌のリスクファクター

6. 早期発見するために;腹部超音波検査の役割

7. 早期発見するために;超音波内視鏡の役割と当クリニックの取り組み

 

1. 膵癌診断のアルゴリズム

膵癌診療ガイドラインに示されている膵癌診断のアルゴリズムです。様々なデータを元に考案されたアルゴリズムです。

 

 まず診断のきっかけとして、膵癌の症状、膵酵素、腫瘍マーカー、リスクファクター、腹部超音波検査が挙げられています。これらに関して説明をしていきます。

 その前に、世間一般の印象で「膵癌になったら助からない」という印象が定着してしまっていますが、これは間違っている部分でもあります。膵癌であっても早期の段階で発見出来れば、根治は可能です。また少しでも早期に膵癌を診断し、適切な治療が行われ効果を示せば、治る可能性はあります。

 膵癌の治療は、一昔前より大きく進歩してきました。現在(2020年)では手術後の再発を予防するために手術の前に抗がん剤治療や放射線療法を行ったり、個人個人の特性に合わせて抗癌剤を選択することが出来るなど、抗がん剤治療の研究も少しずつ成果を残しています。様々な取り組みがなされ次第に治療の選択肢も増え、予後は改善してきています。ただし、どの癌でも言えることですが、早期発見に勝るものはありません。

 

 

2. 早期発見とは?どの段階で発見すれば良いのか?

①早期発見とは、どういう意味か?

 a. 手術をして治る段階・早期癌の段階で発見すること

 b. 進行した中でもより早期の段階で診断にたどり着き、早期に治療を開始するという意味での早期発見

 :例えば、手術が出来ないの状態であってもstageが低い段階で発見された方が早期発見です。またstageIVの膵癌の場合(膵臓以外に癌が転移している状態)、肝臓に1個の転移がある状態で発見されるのか、肝臓に10個・肺にも転移がある状態で発見されるのか。両方ともにstageIVではあるものの、転移している数、臓器が少ないほど早期発見と言えます。

 早期発見には、この両者の意味合いが含まれますが、よく言われる早期発見とは、「a」の治る段階で発見することを指すことが多いかと思います。ただし、「b」の意味合いでの早期発見ももちろん重要であり、全身状態が良ければよいほど、使用できる抗がん剤が増えるなど、治療の選択肢が増えます。

下にEgawa等(2012, pancreas)が報告した日本における膵癌のstage別の生存率を示します。

 stageが低いほど、生存率が高いことがわかります。つまり根治出来なかったとしても、少しでも早く発見し治療することで、その方の人生を延ばすことが出来るということです。

 

②どの段階で発見すれば、根治が目指せるのか?

 膵癌は、確かに治りにくい癌ですが、決して治らない癌ではありません。

下に、Egawa等(Pancreas 2012)が報告した、膵癌の大きさ別の生存期間を示した図を提示します。

 この結果が示すのは、

 a. 膵癌の95%以上が2cm以上で診断されており、2cm以下の膵癌は5%であること:やはり早期発見が難しいことを示しています。

 b. 2cm以上で発見された場合の予後は5年生存率(5年後に生存している確率)が7.8-15.4%と極端に低いことイメージ通りです。

 c. 2cm以下で診断された場合には、5年生存率は50.0-80.4%と跳ね上がり、特に1cm未満で発見した場合には、5年生存率が80.4%と非常に高いこと:そうなの?と思った方も多いかと思いますが、この段階での発見を目指せば根治が望めるということです。

 Egawa先生等のデータは非常に価値のある、また診療にかかわるドクターにとって非常に重要なデータとなりました。そして20mm以下で膵癌を発見することの重要性とともに、10mm以下で発見し治療した場合には、5年生存率が80.4%と他の癌にも劣らない予後が望めることが明らかになりました。

  つまり、20mm以下で膵癌を見つけることを目標にし、理想的には10mm以下で膵癌を見つけることが重要です。

 

 

3. 早期発見するために;膵癌の症状

 膵癌の症状は様々あります。代表的な症状を下記に上げます。

腹痛・腹部違和感:膵癌のほとんどは膵管から発生し、主膵管に影響を与えます。主膵管は狭くなり閉塞すると、それより上流の膵管は拡張し膵液が流れることが出来なくなります。その結果、上流の膵管の圧が上がり、微小な膵炎を繰り返します。その過程で腹痛や腹部違和感が出ます。また膵癌自体が膵臓を超えて周囲の組織や臓器にまで広がっていっても腹痛は出現します。膵臓は胃の後ろ側にあります。そのため、ほとんどの患者さんは胃のあたりの調子が悪い訴えて来院されます。

 実際には膵癌よりも胃が痛みの原因である患者さんが多いこともあり、通常は胃カメラや採血などが行われます。胃カメラで原因がわかることもありますが、明らかな原因がない場合も多く経験されます(実際には胃の痛みであったとしても胃カメラで原因がないことも多々あります。)。この場合、胃薬や痛み止めが処方されます。薬の効きが悪い場合や、症状が改善しない場合には、当院では膵臓の検査をお勧めしています。

 

背部痛:膵臓は胃の後ろ、大動脈・背骨の前に位置する背中に近い臓器です。そのため、膵癌による炎症・もしくは膵癌自体は、背中側に広がっていく場合には、背部痛が出現します。癌自体が、大動脈の近くにある神経に噛みつくように広がっている場合には、手術で治すことは難しい段階になります。

 背中が痛い場合、何かを受診するか?おそらく整形外科へ行かれる方が多いと思います。膵癌は若い方に多い癌腫ではありません。通常背中の痛みで整形外科を受診すれば背骨のレントゲンが撮影されます。高齢の方であればたいてい、背骨に変化(変形性脊椎症など)を認めます。整形外科的痛みで矛盾しなければ、痛み止め(ロキソニンに代表される非ステロイド性消炎鎮痛剤)が処方されます。癌の痛みには効かないのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、非ステロイド性消炎鎮痛剤は癌による痛みの治療に第一段階として用いられる薬です。症状は改善します。しかしずっと続いている訳ではありません。数か月後に全く効果がなくなり、精査をすると膵癌であった。これはよく経験される膵癌の経過です。

 

黄疸・肝機能障害:この症状は、基本的には膵頭部(膵管の出口に近い場所)に癌が出来た場合に出現します。膵管は十二指腸乳頭部から十二指腸に膵液を分泌していますが、胆汁が流れる胆管も同様に十二指腸乳頭部から分泌されます。胆管は出口近くで膵臓の中を走っています。そのため、膵頭部に癌が出来た場合には、胆管を圧迫もしくは閉塞させることがあります。そうすると胆汁の流れが妨げられ、黄疸や肝障害が出ます。こういった物理的に胆汁の流れが妨げられた場合の黄疸を閉塞性黄疸と言います。下流が塞き止められているため、上流の胆のうや肝臓の中の胆管が拡張するのが特徴です。

 黄疸が出現した場合、白目が黄色くなります。ご本人はなかなか気が付かずに家人や知人から指摘されることも多いです。黄疸に伴い、全身のかゆみ灰白色便が出ることがあります。また胆管や胆のうが拡張するとみぞおちの辺りや右の季肋部が痛くなり、吐き気や嘔吐が出現することもあります。流れが悪くなった胆汁に腸内の細菌が感染すれば胆管炎を起こし発熱します。

 

脂肪便・下痢便:膵臓の役割に食物の消化があります。膵癌が主膵管を閉塞し、膵臓から十二指腸に分泌されるばずであった、リパーゼ・ホスホリパーゼなどが十分に分泌されなくなると脂肪の分解が出来ずに、消化吸収が出来ない状態で便として出てしまいます。この結果、油が浮くような脂肪便や慢性的に便がゆるい症状が出現します。

 

糖尿病発症・悪化:ご本人の自覚症状ではありませんが、糖尿病を発症した・急に悪くなったというのは立派な膵癌の症状の一つです。膵臓の役割には血糖の調節があります。人類史の中で、現在ほど飽食な時代はありませんでした。そのため血糖を下げるホルモンはインスリンの一つしか存在しません。インスリンは膵臓で分泌されています。膵癌のほとんどは膵管から発生し、主膵管に影響を与えます。主膵管は狭くなり閉塞すると、それより上流の膵管は拡張し膵液が流れることが出来なくなります。その結果、上流の膵管の圧が上がり、微小な膵炎を繰り返します。その結果、膵臓は正常な機能を果たすことが出来ずに次第に萎縮し機能が低下していきます。この過程で糖尿病が発症したり、悪化したりします。約半数の膵癌の患者さんで膵癌と診断される2年以内に糖尿病の発症が認められます。糖尿病は膵癌の重要なサインの一つです。

 

⑥その他:体重減少・食思不振・腹部膨満感・全身倦怠感・吐き気/嘔吐

 

 ※早期膵癌における症状の頻度を示します。何かしらの症状があった患者さんは25%に過ぎません(Egawa等 Pancreas 2012)。残りの75%の患者さんは無症状です。

 症状から膵癌を疑うことは非常に大切なことですが、早期で発見するためには症状のみを当てにしていては難しいのが現状です。

 

 

 

4. 早期発見するために;膵酵素・腫瘍マーカー

①膵酵素:代表的な膵酵素にはアミラーゼとリパーゼがあります。これら膵酵素が高い場合、膵液の流れるパイプである膵管の流れに何かしらの異常を来たし、炎症が起きたりしている可能性があります。原因は様々で、胆石であったりアルコールや薬が原因であることもあります。また膵癌の多くは膵管から発生するため、膵液の流れが悪くなり膵酵素が上がることがあります。そのため膵酵素の上昇は、膵癌の診断のきっかけになることがあります。

 ただし、アミラーゼという酵素は唾液腺からも分泌されるため、アミラーゼが高い場合には、膵臓由来なのか唾液腺由来なのかを調べる必要があります(アミラーゼアイソザイム検査)。

 

②腫瘍マーカー:腫瘍マーカーは癌は存在すると上昇するマーカーですが、決して高い精度の検査ではありません。膵癌で上がり得るマーカーはCEA・CA19-9・DUPAN-2・Span-1などです。もちろん高値であった場合には、膵癌の検査は行うべきです。しかしながら、腫瘍マーカーが陰性であるから膵癌の心配はありません。とは言い切ることは出来ません。実際にガイドラインにおいては、腫瘍マーカーは早期膵癌の検出には有用ではないと記されています。またこれらマーカーは膵癌に特異的なものではなく、色々な癌腫で上昇しうるマーカーのため腫瘍マーカーが高いという場合には各種検査が必要になります。

 

※早期膵癌における腫瘍マーカー上昇の頻度を示します。たった2.9%に過ぎません(Egawa等 Pancreas 2012)。ほとんどの早期膵癌の患者さんは腫瘍マーカーが正常値であるということです。

 腫瘍マーカーから膵癌を疑い発見することは大切なことですが、残念なことに早期で発見するためには有用ではありません。

 

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