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膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)とは?

 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は、膵臓に発生する嚢胞性腫瘍のうち最も頻度が多いものです。有病率は報告により様々ですが、全人口あたり1%未満~4.3%と報告されており決して珍しい病気ではありません。膵臓には主膵管と分枝膵管という膵液を運ぶパイプが走っています。イメージとしては葉っぱのイメージです。その膵管の細胞に粘液を産生する細胞が出来てしまい、多量の粘液を産生します。その結果、主膵管が拡張してしまったり、嚢胞が形成されます(※実際には嚢胞ではなく、膵管が粘液により嚢胞状に拡張しています。)。ただし、膵癌が出来た事により膵管が拡張したり、嚢胞が出来たりすることがあります。そのため、初めて指摘された場合には、必ず精密検査が必要です。

 IPMNは下の図のように、主膵管型・分枝型・混合型の3つのタイプに分類されています。

 

 

 

 

 ①主膵管型IPMN

 主膵管が5mm以上に拡張しており、かつ膵癌などの主膵管が拡張する原因がない場合に診断します。発癌するポテンシャルが高いため注意が必要です。特に主膵管の太さが10mm以上の場合は発癌のハイリスク群と考えられ、外科手術が勧められています。また主膵管の中に腫瘍状の結節が認められた場合には、癌の可能性があります。

 ②分枝膵管型IPMN

 主膵管と交通する分枝膵管が5mm以上に嚢胞状に拡張している場合に診断します。発癌の確率は年率2~3%といわれています。しかし、嚢胞の大きさが3cm以上であったり、嚢胞内に腫瘍状の結節を認めたり、嚢胞壁が肥厚している場合には悪性の可能性が高いことが報告されています。また、嚢胞が短期間に急激に大きくなった場合にも発癌している可能性があります。発見時点で癌がなければ定期的な経過観察を行います。

 ③混合型IPMN

 主膵管型と分枝型IPMNの両方の特徴を兼ね備えたIPMNです。分枝膵管から産生される粘液で主膵管が拡張している可能性も十分にあるため、純粋に主膵管にも分枝膵管にもIPMNが存在するのかは意見が分かれるとことです。

 

 どこに膵癌が出てくるのか?

 今までの話を読んでいただくと、小さい分枝型IPMNは何もしなくても良いのではないか?定期観察をするというのは、医療機関が利益を上げるためではないのか?と感じる方もいらっしゃるかと思います。

 IPMNにはIPMN由来膵癌とIPMN合併膵癌の両方の発癌形式が報告されています。

 

 ①IPMN由来膵癌

 主膵管の中や嚢胞の中に乳頭状の隆起性病変が出来てきて次第に大きくなり癌になる発癌形式です。小さいうちは腺腫という癌の前段階の状態から次第に大きくなり腺癌になる発癌形式です。この発癌形式は比較的進行速度が遅く経過観察をしっかりしていれば、根治出来る可能性が高いとされています。

写真は、膵管の中に内視鏡を挿入し観察した画像です。両者ともに乳頭状の腫瘤を認め組織検査で腺癌を認めました。(※患者様ご自身にご同意を頂き画像を掲載しています)

 

 ②IPMN合併膵癌

 問題は、こちらの発癌です。確率は年0.1-0.5%程度(200-1000人に1人くらい)と非常に稀とされていますが、この発癌形式はIPMNの分類や嚢胞の大きさなどによっては決定されません。ごく小さい分枝型IPMNであったとしても、通常型の膵癌が突然出て来ます。その進行速度は通常型膵癌と同様です。そのためIPMNはIPMN由来膵癌のリスクが低いと言われるタイプであっても全例で経過観察が必要になります。50歳以上のリスクの無い方が膵癌になる確率は年率0.05%程度といわれており、それと比べると2-10倍程度高いということになります。IPMN患者様の場合、この発癌形式が命取りになることが多いです。

 

 症例提示

 症例を何例か提示します(※患者様ご自身にご同意を頂き画像を掲載しています)。

 

 症例1:MRCPが発見契機となったIPMN合併膵癌

 数年前から分枝型IPMNを指摘されており経過観察をしていました。下に発癌する2年前からのMRCP画像を示します。主膵管の周囲に白い嚢胞が認められます。嚢胞自体はサイズも変わりませんが、突然膵管の拡張を認めました(赤い矢印)。そしてその手前の膵管が以前の画像と比較すると消えてしまっています。そこにごくごく微小な5mm程度の通常型の膵癌が合併していました。症状はなく、採血結果も問題ありませんでした。手術をされ5年以上再発なく経過されていますが、定期観察をしていなければ発見は出来なかったサイズの癌でした。

 

 

 

 症例2:超音波内視鏡検査が発見の契機となったIPMN合併膵癌

 分枝型IPMNの経過観察をしていた患者様です。半年おきにMRCP、CT、超音波内視鏡を行っていた患者様です。超音波内視鏡を行ったタイミングで膵体部に5mm程度の低エコー領域を認めました(上図)。膵野型の膵癌と呼ばれる、初期の段階には膵管に何の変化も及ぼさない、最も早期発見が難しい癌でした。追加でMRCPやCTが行われましたが、腫瘍は指摘できませんでした。

 このくらいの変化は慢性膵炎や糖尿病があり膵臓が萎縮している患者様では当たり前のようにある変化です。少し内視鏡を動かすスピードが速かったら、たまたま瞬きしていたら、あっという間に過ぎ去ってしまう大きさです。良い表現ではありませんが、発見できたのは偶然かもしれません。

この方の場合には、ご本人とよく相談し、手術を行う方針となり外科的切除を行い現在もご存命です。MRCPでは膵管の変化は認められませんでした(下図)。

 

 

 

 症例3:超音波内視鏡検査が発見の契機となったIPMN合併膵癌

 分枝型IPMNの経過観察をしていた患者様です。腎機能障害があり造影剤を使用したCTが施行できず、MRCPと超音波内視鏡で経過観察をしていました。定期観察の超音波内視鏡で、膵頭部に10mm程度の中心に高エコー(白い部分)を伴う低エコー腫瘤を認めました(上図)。MRCPでは異常は指摘できませんでした(下図)。中心部に高エコーを伴っており、典型的な膵癌ではないこと、糖尿病もあり膵が萎縮する過程の変化でも矛盾しないとの判断で、ご本人と相談し短期での経過観察を行いました。3か月後の検査で腫瘤が軽度増大していたため、手術を行ったところ、膵癌の診断でした。この患者様も膵管へ変化を及ぼさない膵野型の膵癌でした。

 

 

 症例4:膵のう胞精査で紹介となったIPMN由来膵癌

  40歳代の非常に若い患者様で、健診の超音波検査で膵のう胞を指摘されました。各種検査を行い、IPMN由来癌の診断で外科的切除を行いました。超音波内視鏡では嚢胞内に乳頭状の結節を認め、IPMN由来膵癌が疑われます。MRCPでは膵頭部に巨大な嚢胞を認めます。

 

 

IPMNの経過観察は?治療法は? 

 残念ながら、膵癌を100%発見できる検査は存在しません。少しでも早期発見が出来るように、当クリニックでは半年おきのMRI検査と超音波内視鏡検査をお勧めしています。CTは放射線被爆の観点から、それら検査で必要があれば造影CTなどを行っています。

IPMNは食生活や薬で治すことは出来ません。誰に癌が出来て、誰に癌が出来ないのかはわかりません。そのため、定期観察を行い発癌した場合には早期発見し早期治療につなげることが重要です。

 IPMNの国際ガイドラインでは、発癌のリスクがある場合には外科的手術を行うと記載されています。しかしながら、予防的に膵臓を切除した患者様の残った膵臓に高率に発癌し、その癌は早期での発見が困難であるとの報告も存在します。そのため当クリニックでは、あくまで癌の兆候があった患者様に手術を勧めています。また癌が無い場合であっても、IPMNにより膵炎を繰り返す場合、IPMNの症状が出てしまう場合、IPMNが破裂したり、胆管など他の臓器と交通してしまった場合などには手術適応です。

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